Japanese Institute for Public Engagement
病気に対する治療薬(ちりょうやく)を世の中に出す(開発)するには、まず有望なお薬の「モト」をさがすことからスタートします。
<お薬のモトのさがし方>
1.自然界から候補物質を見つける。
2.化学物質を合成してつくる。
3.すでに発売されているお薬の中から、別の病気にも使えそうな物質を探す。
次に、研究室で、その薬のモトとなる物質を調べて、実験データを取ります。
<実験の方法の例>
1.培養細胞(ばいようさいぼう)を使った実験
2.コンピューター上でのシミュレーション。
3.動物実験 など
実験データから、良い候補(こうほ)になることが確認(かくにん)されたら最後は人に使ってみて、有効性と安全性をテストします。
この実験やチェックのなかで、とくに人に対して行うものを治験(ちけん)といいます。一番最初から治験が終わるまでたっぷり10年はかかり、成功確率は約2万5千分の1ともいわれています。
初めて人に対して行う治験を『第1相試験』といい、ふつうは健康な大人がボランティアとして参加します。ここで安全だとわかったら、次に患者(かんじゃ)さんが参加して『第2相試験』に進み、結果が良ければ『第3相試験』へと進みます。『第1相試験』から『第3相試験』まで順調に進み、専門家のグループが全てのデータをチェックして新しいクスリとして使えるという結論(けつろん)になったら、厚生労働省が許可「承認(しょうにん)」して、お薬として使えるようになります。
第1相試験:健康な大人(20歳以上)がボランティアとして参加 |
第2相試験:少数の患者さんが参加 |
第3相試験:多くの患者さんが参加 |
治験を計画した製薬会社などが申請し、厚生労働省が許可(承認) |
お薬として使える!(販売開始) |
治験のやり方は、病気の種類や年れいによって変わることがあります。例えば、子どもは大人よりも体が小さいので、体重に合わせて大人の薬を減らして使うことがあります。また。子どもにしかない病気や子どもがかかりやすい病気もあるので、やはりきちんと治験をして安全性と有効性をテストすることが必要です。
治療(ちりょう)で通っている病院のお医者さんから、治験のことを教えてもらうという方法が一番良い方法です。また、あまり知られていないかもしれませんが、病院のホームページやロビーに治験を紹介するポスターがはってあることもあります(さがしてみて)。 治療に参加するにはいくつかの条件をクリアすることが必要です。病気の症状(しょうじょう)や体の状態などさまざまで、誰でも良いというわけではありません。治験で使うお薬や募集(ぼしゅう)の内容、効き目の判定などについてお医者さんから詳しく説明を聞いて、なっとくしたら「同意書」と言う紙に名前を書きます。これをインフォームド・コンセント(説明と同意)と言います。
治験が始まったら計画通りに通院し、検査を受けて、決められた量の薬を使っていきます。思いこみをさけ、より正確に効果を判定するために、プラセボ(薬みたいに見えても効き目はない)を使う場合もあります。これを「盲検化(もうけんか)」といいます。 わからないことや不安なことはいつでも質問できるし、とちゅうで参加をやめてもいいので、心配せずに何でも聞くことが治験に参加するときには大切です。
治験はあくまで薬の効果を確かめるための実験的なテストで、使った薬が必ず効くとわかっているわけではありません。一方、治療で使うのは厚生労働省が効果と安全性をみとめた薬なので安心して使うことができます。
ではなぜ、患者さんは治験に参加するのでしょうか?それは、自分の病気に使える薬がなかったり、今使っているお薬が効かなかったり、あるいはもっと自分に合う薬をさがしたいからです。
いつも病院や薬局でもらうお薬は、その全てがこうした治験でテストされており、さらに厚生労働省の承認を得て販売されています。それぞれに治験に参加してくれた患者さんがいたからこそ、今では誰もが使えるお薬となっているのです。まさに患者さんの先輩(せんぱい)から後輩(こうはい)へとバトンタッチされるギフトですね。
治験 | 治療 | |
---|---|---|
使われる物質 | 治療効果が期待できる薬ンポ効果やプラセボを使うこともある。 | 厚生労働省に認められた薬だけを使う。 |
特徴 | 薬として販売するために、効果と安全性をテストする。 患者さんが選べる治療法を増やすために行う。 |
効果と安全性が認められていて、病気を治すために行う。 |
受ける人の気持ち | 今、自分の病気に使える薬がない! もっと自分にあった薬を探したい! 薬の開発に関わる社会貢献(こうけん)がしたい! |
病気を治したい! 安全性が認められた薬を使いたい! |
新型コロナウイルス感染症(かんせんしょう)では治療薬の開発が強く期待され、アビガンやレムデシビルなどいろんな候補(こうほ)の名前が登場してきました。 しかし急ぐあまりに十分に検討するゆとりがなく、「特例承認」という緊急対応で患者さんに届けるようにした事例もあります。レムデシビルは日本の厚生労働省に申請(しんせい)してわずか3日で承認されました。しかし、通常の審査で承認を受けた薬でも、過去には様々な薬害を引き起こしたものもあり、薬を使うときはいつも注意が必要です。
新薬開発は、はげしい国際競争の真っただ中にあり、治験をたくさんおこなっているアメリカはリーダー的な存在(そんざい)ですが、日本発の薬もがんばっています。
くすりの適正使用協議会「新薬開発の成功確率は?」(くすりの知識10ヵ条 第2条)
一般社団法人 くすりの適正使用協議会
日本製薬工業協会「小中学生のためのくすり情報」:
http://www.jpma.or.jp/junior/
日本製薬工業協会「DATABOOK:2019」:
http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/databook/2019/data/pdf/DB2019.pdf
厚生労働省「医薬品医療機器等法に基づくレムデシビル製剤の特例承認について」:
https://www.mhlw.go.jp/content/000628076.pdf